れきぞーの地元れきし発見!

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ご希望の場所の歴史ガイドを承ります!地元に行きます!

 

この日本、歴史がない場所なんてありません。

皆さんの今いる場所もそうです。

どんな小さな街、どんな田舎、皆さんの故郷にも必ず先人が積み重ねてきた歴史と誇りがあります。

私「歴史面白く伝えたい蔵(れきぞー)」が、
皆さんの地元やお住まい、ご希望の場所に伺い
その土地の史跡を巡る歴史ガイドを承ります!
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学校の授業ではないので、面白く楽しくお伝えします!

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【国内旅行記(3)】八尾市

今回は大阪府の八尾市を取り上げます。

・澁川神社
・澁川天神社
跡部神社
・大聖大勝寺
物部守屋大連墳
・鏑矢塚
・弓代塚
・樟本神社
稲城
・弓削神社(東・西)
・矢作神社

八尾は旧河内国で、前回紹介しました通りニギハヤヒの子孫である物部氏
と深い繋がりのある場所です。
奈良から大阪へ流れ出る旧大和川の流域にあり、河内物部氏の本拠地
だったことで知られています。
6世紀に蘇我氏と対立したあの物部氏ですね。

 

JR八尾駅から南へすぐのところに澁川(しぶかわ)神社があります。
ここが物部氏の旧邸宅があったと伝えられる場所です。あの物部尾輿(おこし)や
物部守屋(もりや)たちがこの辺りで生活していたと考えるとワクワクしますね。
物部氏の祖ニギハヤヒが祭神となっています。

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澁川神社

また澁川神社から西へ5分ほど歩いたところに「澁川天神社」がありました。
澁川廃寺とも言われるところで、かつて物部氏の氏寺だったようです。
なお、さらに西へ2kmほど行くと「跡部(あとべ)神社」があります。
物部氏の一族である阿刀部連が居住していた地とのこと。
この渋川神社、澁川天神社、
跡部神社そして後で述べる弓削氏の弓削神社が全て
大和川沿いに並んでいるのはもちろん偶然ではないでしょう。
物部氏一族で旧大和川の水運を掌握していたものと考えられます。

ここから南方には、蘇我氏物部氏が争った丁未の乱の古戦場が広がります。
その傷跡は今でも生々しく残っており、個人的には強く念を感じる場所です。
大聖大勝寺は、その名の通り聖徳太子蘇我氏側の戦勝を祝って
建てられたお寺です。
境内には聖徳太子物部氏の攻撃から守ったとされる大樹、
門前には敗死した物部守屋の首を洗ったと伝わる池が残されています。

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大聖大勝寺

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聖徳太子を守ったとされる樹

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物部守屋の首を洗ったと伝わる池

少し南に下がったところには、守屋を射倒した矢と弓を埋めたと言われる、
鏑矢塚と弓代塚もあります。

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鏑矢塚

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弓代塚

ここまでするのか。苛烈な敗者への仕打ち・・・

さらに南に数100m進むと物部守屋が戦に備えて築いた稲城の跡が残されており、
稲城の中に生えていた大きな樟(榎とも)を祀った樟本神社があります。

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稲城

大聖大勝寺から車道に沿って数10m東へ進むと物部守屋の大連墳が見えてきます。
建物に挟まれてポツンと立つこの墓は、誰にも顧みられることなく
真横を車がビュンビュンと通り過ぎます。
しかしなんとも言えない強烈な念を放っています。
少なくとも私にはそう感じられました。
墓の周囲には全国の名だたる神社からの寄進を受けた石碑があります。
物部氏ニギハヤヒを祀る神社は全国に数多。彼らの無念の思いが辺りに
充満しているように感じました。

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物部守屋大連墳

 

所変わって八尾から東方へ数kmほど、弓削(ゆげ)にやってきました。
あの道鏡を輩出した弓削氏の本拠地で、弓削氏物部氏の一族です。
彼は"相棒"であった称徳天皇を今の弓削神社に招き、弓削宮(ゆげのみや)を造営しました。
もしかしたら、道鏡とこの女帝は、蘇我氏を滅ぼした藤原氏(中臣氏)が実権を握る時代
において、物部氏復権を計ったのかもしれませんね。

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(西)弓削神社


ここまで紹介してきました通り、八尾は物部氏と切っても切れない縁のある場所でした。
丁未の乱で滅ぼされ7世紀以降日の目を見ることのなかったニギハヤヒの子孫達の
数少ない繁栄の跡が、この地には確かに残っています。
八尾は歴史的観光スポットの多い大阪府の中でも日頃大きな注目を浴びる街ではありません。
しかしこういった歴史を知る者として、彼らの無念の思いに心を致し
八尾の名前とともに語り継いでいきたいと感じました。


【国内旅行記(2)】交野市

大阪府は交野(かたの)市に行って参りました。

交野と言えば七夕や天の川伝説を思い浮かべる人が多いかと思います。

そう、「星」と密接に関わりがあるのがこの地です。

 

磐船神社

・星田妙見宮

府民の森 ほしだ園地

 

交野市は大阪府奈良県を隔てる生駒山地の北端にあたります。

磐船神社生駒山地の山間の窪みにポツンと存在する神社です。

峠道の途中に鎮座する縦横12m~15mほどの巨石を祀っており、パワースポットとして全国から拝観者が訪れるとのこと。

山独特の涼やかな空気を纏っているからか、確かに説明のしがたい神聖さや力のようなものは感じます。

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磐船神社

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磐船神社(正面から)


この巨石は古事記先代旧事本紀では物部氏の先祖である饒速日命(ニギハヤヒノミコト)が乗って天から地に降りてきたものとされ、さらに都市伝説界隈ではこれが宇宙船だったのではないかと言われたりしています。つまり饒速日命は宇宙人だったと。

岩をよく見てみると、正面から向かって右側(南側)はダイヤ形というかおおまかに菱形の成形を保っていますが、左側(北側)はおにぎりが崩れたような形をしており、決して左右対称とは言えません。数千年間の雨風の浸食で形が変化してきている可能性は否めませんが、仮にも宇宙船ならばもう少し整った形をしているのではないかと。

さらに言うと、周囲には似たような巨石がゴロゴロとあり、単に山から削れ取れた落石のひとつという可能性も否定できません。

しかし、日のないところに煙は立たぬが信条の私としては、こういった伝承を無下にすることはできません。いわゆるUFOでなくとも、例えば隕石、すわなち星だったのではないかと考えられないものでしょうか。

この巨石に乗って地上に下ってきたという饒速日命当人についてはなんとも・・・。彼はあくまで地球人で隕石の第一発見者でかつその神格化に成功した交野在地の有力者なだけでは、という夢のない想像をすることもできます。しかし岩に乗ってやってきたと考えた方が楽しいではありませんか。

交野市や北隣の枚方市の一帯は古来から交野ケ原と呼ばれ物部氏の領地でした。饒速日命の子孫たちです。"肩野"物部氏と呼ばれる彼らが敏達天皇の后(きさき)である豊御食炊屋姫(後の推古天皇)にこの地を献上したことから、交野市役所付近を私部(きさべ)、市南東部を私市(きさいち)と言います。いずれにしろ饒速日命とその子孫が当時この地で特別な存在であったことは間違いないでしょう。

 

磐船神社から北西に進み山を越えて降りたところに、妙見山と呼ばれる小高い山と「星田妙見宮」があります。

星田妙見宮は妙見山の頂上にあり、こちらでもなんと巨石が祀られています。

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星田妙見宮

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祀られる岩

伝承によると、平安時代初め弘法大師が私市の獅子屈時で修業をしていたところ、北斗七星が3か所に分かれて落下し、その一つがこの山に落ちたということです。そう、また星ですね。しかも残りの二つである光林寺・星の森とは地理的に正三角形を成しているとのこと。この辺りの地名は星田と言いますが、磐船神社と合わせて何か運命のようなものを感じざるを得ません。

 

交野ケ原(交野市・枚方市)が発祥の地と伝わる七夕伝説。交野市では7月に市をあげて七夕祭りが行われます。その発祥は諸説あるようです。奈良時代にこの地に赴任した百済王敬福の一族が、交野市と枚方市を流れる「天の川」を見て故郷の百済で伝わる天の川の伝説を思い出したことからとも言われます。また織姫と彦星の息子が饒速日命その人であることが由来ともされます。星にここまで縁のある交野市、後者である可能性も案外捨てきれないかもしれません。

 

次回は、饒速日命の子孫物部氏の”もう一つ”の拠点である大阪府八尾市に焦点を当てようと思います。

 

【おまけ】

ほしだ園地と園内に設けられた巨大吊り橋「星のブランコ」にも行ってきました。

緑茶黄色の混ざる紅葉の景色が素晴らしかったです。

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ほしだ園地

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星のブランコ

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紅葉(星のブランコの上から)

 

【短編(4)】伝説のアスリート

 

 あの部屋はいつ見てもずーっと明かりが付いているなあ。

 昼も夜も。

 そう、あのアパートの3階。左から2つ目の部屋。

 

 その日は休日だった。先週大きな仕事がひと段落したので久しぶりの連休だ。出版社で雑誌の取材や営業をしているが、充実はしつつも楽な仕事とは言えないので、こういったお休みはとても貴重である。少し朝寝坊をして遅めの朝食を取り、身支度を済ませてから散歩も兼ねて軽い運動に出かけた。

 ボーっとしていたからだろうか、テニスコートや緑のある公園の方向へ向かおうとしていた私は、ついついいつもの慣れた通勤路をたどってしまっていたようだ。自身のワーカーホリックぶりに苦笑しながら道を引き返そうとすると、ふと角にある古びたアパートが目についた。

 毎朝毎晩、なんとなく見ているアパート。そしてなぜかいつも明かりがついているあの部屋。いつも少し気になってはいたが、常に仕事の段取りで頭がいっぱいの私はまるで風景のように気づかないふりをして通り過ごしていた。

 2年ぶりの連休でその日の私は何かおかしくなっていたのかもしれない。気がつくと、エレベーターに乗り込んで3階のボタンを押し、その部屋のドアを叩いていた。

 非常識なのはわかっている。何も言い訳はできない。社会人として考えられないことだ。しかし何かが、心の奥底にある何かが私を確実に突き動かしていた。自分でもわからない何かが。

 幸か不幸か、私のノックに応える物音はなかった。今にも壊れそうな木製のドアに遠慮しながら何度か繰り返してみたものの結果は変わらず。落胆と密かな安ど感を抱えながら立ち去ろうとした時、左隣のドアが開き箒を持った白髪の女性が顔を出した。

 女性によると、その部屋の主はずいぶん前に出ていくのを見たっきりで、それから戻ってきていないようだ。名前は知らないし喋ったこともないが、若い大柄な男性であるとのこと。友人か、親戚か、と入歯を鳴らし固唾を飛ばしながら追求してくるその女性から逃れるため、私は丁寧にお礼を言ってそそくさとその場を後にした。

 1週間後、珍しく定時で仕事を切り上げた私は、急いで帰りの支度をしてギリギリの電車に飛び乗り、駅から一直線で再びアパートへ向かった。体力にはかなり自信があるとはいえ、仕事以外でこんなに急ぐ自分は久しく記憶にない。心の中で首をかしげながらもエレベーターを上がりドアをノックした。左隣の住人が出てこないようできるだけ音を立てずに繰り返したが、今回もやはり反応はない。数分ほどやって諦めて帰ろうとすると、今度は右隣の扉から赤ん坊を抱きかかえた若い茶髪の女性が飛び出してきた。

 よく覚えていないが、子供が寝ようとしているのにうるさいといった趣旨の罵声を浴びせられたと思う。しかし、わざわざ大事な仕事を明日に残して来たのに何の収穫もないことに耐えられない私はひるまず隣人についての情報を求めた。そうすると意外にも彼女は急に機嫌を直し、「マサト」について楽し気に話し始めた。彼は27、8歳で歳が近くスラっとしたイケメンなので、普段からよく話をしているらしい。彼女によると、昨日は久しぶりに戻って来ていたが今朝またどこかに出かけて行ったとのことである。一ヶ月近く留守にするので色々頼むと言われたそうだ。私は昨日来ればよかったと歯がゆい気持ちになりながらいくつか質問を加えようとした。しかし話し声が聞こえたからか二つ左の部屋のドアが開く様子がしたので、無念さを押し殺して慌てて話を切り上げ、礼を言いながら立ち去った。

 帰りの道で私は、まるで諸葛亮孔明(しょかつりょうこうめい)に会おうとする劉備玄徳(りゅうびげんとく)みたいだな、と三国志の登場人物に例えて自分を笑った。と同時に、普段仕事にしか興味のない自分があの部屋とあの明かりにここまで執着することに驚いてもいた。

 年度末のとてつもない忙しさを乗り切り1か月ぶりにようやく一日だけ休みが取れた私は、早速「諸葛寮」と勝手に名付けたそのアパートに向かった。3度目の正直だ。「三顧の礼」ならば今回こそは会えるはずだと祈るように歩を進め、ドアの前でもう一度祈った。

 いつものように明かりはついている。しかしノックをしてもやはり反応がない。朝なので問題ないだろうと思った私は右の隣人のドアを叩いてみた。眠い目をこすりながら出てきたシングルマザーは私を見ると思い出したように破顔し、聞いてもいないのにペラペラと話し出した。「マサト」は今ちょうど出かけているが昼前には帰ってくる。それを聞いた私は年甲斐もなく10年ぶりのガッツポーズをした。

 彼女は問題ないと言ってくれたが、若い女性の部屋に男一人で入るのはさすがに憚られるので、私は1階の階段脇にある喫煙スペースで待つこととした。昼を過ぎ、13時を過ぎても「彼」が戻ってくる様子はなかったが、どこかで昼ごはんでも食べているのだろうと、自身が取材し編集した先週号のスポーツ雑誌を片手に気長に待つこととした。雑誌をめくりながら、なぜ自分はこの部屋に惹かれたのだろう、なぜ明かりがつきっ放しなのだろう、今さらながらそんなことを考えたりもしたが、答えはでなかった。

 15時を回っても人の通る形跡がない。さすがに痺れを切らした私は彼女に少々苦情を言おうと3階に戻った。すると、あの部屋に人気を感じるのだ。確実に中に人がいる。そうだ、3階へ上がる階段は西側にもあったのだ。興奮と心臓の鼓動はうっかりミスに落ち込む気持ちをかき消し、私は若い女性の部屋を通り過ごしてその目当ての部屋の前に立ち、恐る恐る扉をノックした。しばらくして中の人物がみしみしと音を立てながらゆっくりと入口に近づいてきた。そして中から声が聞こえてきた。

 

 

佐々木さんですね。お待ちしておりました。

 

なぜ私の名前を・・・?

 

お仕事もご順調のようで。あなたのテニス雑誌は私もよく読ませていただいています。

 

なぜそんなことまで・・・

 

扉を開けます。とりあえずお入りください。

 

あ、突然なのにすみません・・。

 

いえいえお気になさらず。

 

失礼します。・・・・・・え、あなたは、近藤マサト選手・・・・!!なぜこんなところに・・・・どうして・・・・!!

 

それはこちらのセリフです。あなたこそなぜまだこんなところにいらっしゃるのですか。まあ奥にどうぞ。

 

すみません・・・・・・いや信じられない。元全日本テニス選手権覇者のあなたが・・・あの全英オープンもすごかった・・・なぜ急に辞めてしまったのですか・・・なぜ急に人々の前から姿を消してしまったのですか・・・

 

お話は置いておいて、とりあえず奥にお掛けください。

 

ありがとうございます・・・失礼します。

 

なぜお越しいただけたのですか?しかも3回も。まあ、私はわかっておりますが。

 

いや、なぜって・・・なぜだろう。毎日気になっていたんです。明かりがついていたから。他の部屋はろくに明かりがついていないのに、この部屋だけずっとついていた。窓にはテニスのポスターも貼られていました。まさかあなたのお部屋だとは・・・

 

つけていたんです。あなたにお越しいただきたかったので。私から行くのではなくあなたの方からお訪ねいただきたかった。

 

取材してほしかったということですか?

 

いえ、違います。

 

あらら・・・結構いい記事書きますよ?あの近藤マサトが電撃復帰、なんてめちゃくちゃ話題になるのが予想できます。自慢ではないですがこの世界では私はなかなかの売れっ子なんですよ。

 

単刀直入に言います。戻りませんか?

 

どこにですか?何をおっしゃる。あなたこそ戻ってくださいよ。テニス界に。国民みんながあなたがいなくなったことを残念がっています。

 

でも私はもう忘れられています。

 

みんな覚えていますよ。あの頃は毎日テレビで取り上げられていましたから。それこそあのウィンブルドンの準々決勝はすごかった。

 

いえ、あなたが私を忘れておられるのです。

 

何と。私の職業をご存じですよね?ご冗談はやめていただきたい。もちろん過去にあなたの記事を書かせてもらったこともあります。あの高い打点からコートの隅にささるサーブは忘れられません。

 

やはりお忘れのようで。高校時代、あなたは強豪校のエースでした。全国高校テニスの決勝で破った相手のことを覚えていますか?

 

いえ・・・・

 

勝った方は覚えていないのですね。負けた側はいつまでも忘れられないのに。

 

もしや・・・・・・

 

圧倒してストレート勝ちでしたもんね。あのストロークには文字通り手も足も出ませんでした。あの時の悔しさと感動は脳裏にこびりついて離れません。なぜやめられたのですか?高校生史上最強と謳われたあなたが。

 

それは・・・・・・・見てのとおりですよ。

 

そのお体だからですか?

 

まあ、そうですよ・・・

 

ご存じない訳はないですよね、車椅子でもテニスができるって。やっている方が日本にもたくさんいらっしゃるって。先週号のあなたの雑誌でまさに特集されていたじゃないですか。

 

違うんです。私はもういいんです。今の仕事が気に入っています。

 

忘れようとして今のお仕事に没頭されるお気持ちはわかります。しかしあなたはそれで本当によろしいのですか?

 

雑誌の仕事がダメだと言うのですか?これも立派な仕事です。少なくともテニス界に貢献していると自負しています。

 

元々先週号は確か世界的プレイヤー達のプライベート特集の予定でしたよね。それが車椅子テニスの特集に差し替わっていました。あの車椅子テニス界のスター国枝選手にインタビューもされていましたよね。書き手も取材ももちろんあなたのお名前でした。

 

彼は素晴らしい選手ですからね。当然です。

 

いかにも昭和な感じでぼろぼろなのになぜかエレベーターだけがついているこの奇妙なアパート。まあ私が管理人にお金を出すと言って無理やりつけたんですがね。この下町ではエレベーター付きの建物は珍しいはずです。あなたはそこにご自身の意思でいらっしゃったのです。もしかしたら無意識かもしれませんが。最近はラケットを買われて公園のテニスコートで一人練習もされているとか。まだ申し上げましょうか?それがあなたの答えです。

 

そういうあなたはなぜ・・・あの全英オープンの後から姿を見せなくなったのですか・・・?あなたのあの実力でそんなに急に競技力が落ちるなるなんてことはありえない。

 

あなたを探していたのです。高校テニス界の鬼、佐々木ハヤトを。

 

いや・・・またまたご冗談を。

 

あのウィンブルドンセンターコートで、私はチャンピオンとなる選手と激闘を繰り広げました。確かに彼は強かった、とても試合巧者だった。しかし、敗れてしまった私が言うのもなんですが、高校時代に体感したあなたのストロークより優っているとは思えなかったのです。

 

いやいや・・・あの近藤選手の口からそんなこと・・・

 

ご謙遜なさらないでください。両方を経験した私にしかわからないことです。あなたより強い奴が世界にはいる、高校でのあの試合以降ずっとそう思って頑張ってきました。高校卒業後は就職しようと思っていた私がプロになって全日本選手権に出て世界に出た理由はひとえにそれです。それだけが私のモチベーションでした。しかし実際は違った。ウィンブルドンでの戦いが終わり、それと同時にプツンと緊張の糸が切れた気がしました。世間の人がどう思ったかは知りませんが、私のプロテニスプレーヤーとしての人生はそこで一度終わったのです。そこから、高校3年の時に交通事故で突然引退した佐々木という伝説の選手を探す旅が始まりました。出版社に就職されているとの事実をつかむのに丸2年かかりました。そこからこのアパートを借り、情報を集めながらひたすらあなたの到着を待ったのです。

 

なんと・・・・

 

あなたのいるべき場所、テニス界に、一緒に戻りませんか?

 

一緒に・・・?あなたは・・・・?

 

ご存じのように車椅子テニスにはダブルスがありますよね。

 

え・・・?

 

ストロークのあなたとサーブアンドボレーの私、ダブルスを組みませんか?健常者でも車椅子に乗って大会に参加できる、あなたもそう雑誌に書いておられましたよね。

 

 

 

 

 私の両眼には涙があふれていた。それが、私と彼の第2の人生が始まった瞬間でもあった。この古びたアパートのこの一室は、後に伝説のアスリート誕生の場所としてテニス界に末永く語り継がれることとなった。

 

 

【短編(3)】人生はゲーム

 

 「水前寺清子の三歩進んで二歩下がるってやつ、それが俺の人生だよなあ。」男は不意に思った。

 正面に立つディーラーを睨むその目つきはひどく焦点がずれている。本人は力を込めて凝視しているつもりのようだが、どう見ても明らかに生気が足りず、傍目にはこの男が強い人間なのか弱い人間なのか判断がつかない。テーブルを握りしめる両の手はよく見ると小刻みに震えており、かき乱した髪の毛は入道雲のように逆立っている。爪先で地面を蹴り続ける音は辺りに鈍く響いており、その異様さにこの男が正常な精神状態にないことは明らかだった。

 男は今、人生で何度目かの大きな大きな賭けに出ていた。このブラック・ジャックやカジノの世界では「オールイン」と呼ばれる、保有コインの全賭けである。高い計算力と戦術眼を活かして今日の前半から着実にリードを重ねてきた男は、13番目のゲームが始まる直前、何かに導かれるように手元のコインをすべて台の上に移動させた。金額にして2千万、いや3千万を超えるかもしれない。 

 男は自分でも何をしているのかわからなかった。そもそもなぜ今日カジノに来たのかも。金に困っているとはいえブラックジャックなんてネットゲームでしかやったことはない。カジノはもちろんギャンブル自体が人生で初めてなのだ。本物のディーラーを目の前に自分がギャンブルをするなんて、元来気の弱い彼には想像だにできないことだった。朝起きて気がついたらカジノの派手な看板の下に立っていた。男にとってそれが全てであった。無責任だと言われようと、そう説明するしか他にないのである。
 ただ普段ネットでやり込んでいるだけあって、これまでの戦略は全く間違っていないどころか信じられないくらいに的中していた。ローリスクの掛金でディーラーを油断させてバーストを重ねさせることで、着実に手元のコインを増やしていく。これをこれからもしぶとく続けていれば間違いはなかったはずだ。もう十数ゲームほど続ければ借金も半分くらいは返すことができるかもしれない。なのにどうしてか。目の前に積まれたコインの山を目にしたディーラーは極力バーストを避けてステイに徹し、プレイヤー達のバーストを待つだろう。そうすると男の数千万は海の藻屑と消えてしまう。もうさすがにこの借金は返せないはずだ。それこそ文字通り首をくくるしか方法がなくなる。あまりに順調な勝ち戦についに冷静な判断力を失ってしまったか、傍目からはそのようにも見えた。男は自分の大胆な行動に自分でも戸惑っていた。なぜこんなことをしたのかと。しかし彼の脳裏には同時に直感とも取れない妙な確信も微かながら芽生えていたのである。

 男にはこれまでの人生でも何度かそういった不思議なことがあった。大卒後、上場企業のビジネスマンとして順調にキャリアを重ね、社内恋愛した女性と結婚して幸せな家庭を築いていた男は、10年前に突如として脱サラして個人経営のデザイナーに転職した。愛妻に相談もせず退職を強行した彼はその後当然のことながら離婚の憂き目に遭う。大きな空き家のローンと養育費の支払いに負われる生活は預金残高をみるみる溶かし、その生活は荒れた。せっかくのデザイナーとしての仕事がおざなりになった男は、なぜ自分がそのような道を選んだかわからず苦悩し、暇を見つけては街を徘徊して現実逃避をした。

 ある日、いつもの徘徊コースから離れて不意に導かれるように西へ西へと脚を向けた彼は、1時間ほど歩を進めたところで草むらに茶色い小さな影を見つけた。ツチノコの子供だった。その日から男は街のちょっとした有名人となった。市長から賞状と1000万円の小包を受け取る姿が全国のテレビに映し出されたのは記憶に新しい。

 1000万円を元手に自宅を改装した彼は、心機一転デザインの仕事に精を出すべく睡眠時間を削って一心不乱に紙に筆を入れた。来る日も来る日も描き続けた男は、ある日急に思い出したように煙草のケースを取り出し火をつけた。ビジネスマンを辞めて以来一切手を付けていなかったものだ。火を燻らしながらしばらく仕事を続けたのち、鳴り響くサイレン音にパッと目を覚ました時、焼け焦げた匂いと周囲になにもないその視界で男は全てを悟った。その後の始末も男を苦しめた。火災保険に加入していた彼は、その怪しい保険会社名が日本の法人登録名簿に記載されていないことを知り、愕然としたのであった。男にはおよそ4千万円を数える多額の借金と借金取りに怯える生活だけが残った。

 男の人生は行ったり来たり、まさに人生そのものがゲームのようだ。塞翁が馬と言えば聞こえは良いが、自分の突飛な行動がこれ以上ない幸せやとてつもない不幸を呼んでいることは事実である。しかし、自分でもなぜそのようなアクションを起こしたのか説明ができないのだ。神様のいたずらか、ただの医学的に珍しい精神疾患か。男はこのコントロールできない自らの宿命に、時には悩まされ時には励まされながら生きてきた。

 男の突然の行動に、他のプレイヤーだけでなく当のディーラーもさすがに少なからず衝撃を覚えたようだ。サングラス越しの目は赤く充血し、顔色も少し青白くなっているように見える。しかしそこはプロ、いつもと変わらぬ手つきでトランプカードを繰り、これまでと変わらず見事な手つきでプレイヤー達の前に配り終えた。さあ、一生を賭けた勝負だ。

 男のカードはまず「Q」「6」。ディーラーの手元には「5」。男のポイントはこの時点で「16」、ディーラーは「5」。定石ではプレイヤーは絶対に「ステイ」だ。ディーラーはハード17で強制的にステイとなるため、プレイヤーである男がこの時点でステイすればディーラーは確実に「ヒット」して17ポイント以上を狙ってくる。その分ディーラーは22ポイントを超える「バースト」を起こす可能性も高いため、プレイヤーはこの場合9割9分ステイする。そうしないプレイヤーは見たことがないし、実際今日男はそうやって前半のゲームで勝ちを積み上げてきたのだ。むしろヒットする場合、13種類のカードのうち「6」以上の数字をひいてしまうとその場で男がバーストを起こしてしまい、その時点でこのゲームと人生の敗北が決定してしまう。ヒットは絶対にあり得ない、ヒットは。

 しかし、男の震える指はテーブルをトントンと叩いた。ヒットだ。テーブル全体に衝撃が走る。

 もはや動揺を隠せないディーラーの手が、恐る恐るもう一枚のカードを男の前に差し出す。「1」~「5」ならおそらく男の勝ち、「6」~「K」ならば・・・・・・。

 

 裏返されたカードには「5」の文字が。既に手元にあった16ポイントと合わせて21ポイント。ブラック・ジャック。男はテーブルに印字された「3to2」という文字をその目で慎重になぞり、こぶしを握り締め、そして大きな雄たけびを上げた。




 

 借金完済で大喜びした少年は、意気揚々とルーレットを回し、男が刺さっている車の駒をさらに3コマ進めた。卓を囲む他の3人の少年も固唾をのんで見守る。「寝タバコで家が全焼・・・4000万円払う」「カジノでオールイン!5000万円ゲット」の次は・・・
 「庭を掘ったら石油が!夢の1億円獲得!」

 コマを動かした少年は派手にガッツポーズし、他の3人は悔しそうに唇を噛んだ。

 やっぱり人生ゲームは面白い。

 

 

【短編(2)】橋の上で・・・

 

  お前たちだって俺のことを馬鹿にしているだろう。

  ただの禿げ散らかした冴えない運送屋だと思っているだろう。

  しかし俺は今、とてつもない力を手に入れた。力を手に入れたんだ。

  残念だよ、俺をさんざん蔑んできた奴らのご期待に沿えなくなってしまってよ。

  俺の人生は変わるんだ。

  どう変わるかって・・・・?

  今から話してやろう。おれは「見る」ことができるんだ!

 

 おれがこの仕事をし出してから6年ほどになる。都心の市場に勤めていて、毎日そこから郊外の倉庫へ野菜を、見てのとおりこの三菱の4トントラックで配送するだけのしがない仕事だ。ただの運転だろうと言うけど、夜道は眠いし些細なことで事故が起きるからストレスが溜まる。おれも何度もぶつけたもんだからこのバックミラーなんて曲がって歪んじまってもう役に立たない。さっきの婆さんも危なかったなあ。

 荷運びもあるから重いしきついし、市場や倉庫の連中に文句を言われることもあるし碌なもんじゃないよ。ちょうど今向かっている倉庫の今日の担当者も変わった奴でさ、実は今ちょっと憂鬱なんだよ。

 それでまたこの制服を見てごらんよ。おかしな色でよれよれで、オシャレさのかけらもないしさ、これ着て外に出るの恥ずかしいんだよな。今時緑だよ緑。どこかの都知事でもないんだしみっともないからこんな色早く変えろっての。

 そんなもんで同業者もおかしな奴が多いな。おっさんばっかりだけど、まずモラルや一般常識ってもんがない。途中で昼寝する奴、さぼって女のところに寄る奴、しまいにゃ大事な商品である野菜を勝手に食う奴・・・・まあ最後のはいつもおれもやってしまうんだが、なんていうかまさに底辺というやつだな。しょうもない仕事にしょうもない同業者、おれには到底似合わない。最悪だ。

 違う、違うんだ、おれは大卒だぞ、中央大学。1年留年はしたけど新卒で某大手メーカーに就職してバリバリやっていたよ。ホワイトカラー中のホワイトカラー。しかもただの社員じゃない、同期の中で係長に上がったのは早い方だったしいわゆるキャリア組に数えられてめちゃくちゃ期待されていたんだ。そんでもって同じ部署で年下のかわいい彼女もいた。

 はあ、マジであのクソ後輩さえいなければなあ。あいつさえ来なければおれはまさに順風満帆だったんだ!奴がおれの部署に異動してきた日のことは未だに覚えている。その日からあの子は俺の目の前から消えた。それまではいつも挨拶してくれて、仕事以外でもすごく話しかけてきてくれた。昼食を一緒に食べたこともあった。ん?それは彼女じゃないんじゃないかって?違う違う、見てもない癖に偉そうなこと言うな、おれが彼女と言えば彼女なんだ。おれは荒れた、荒れたよ。怪しかったから二人の家にも付いていったりしたがそんなんじゃあ収まらなかった。あの子の親御さんの家に電話したりもしたよ。それでそこから色々あって社長から呼ばれ、無事早期退職してやったわけさ。

 ああ、本当なら今頃結婚して子供にも恵まれて、俺の実力なら総務系の課長か部長だったろうなあ。そして郊外に一軒家建てて憧れのマイホーム生活。ストレスでこんなに髪の毛がやられることもなかっただろうに。

 クソ、思い出してきた、許せん、許せない。あの野郎だけには絶対に目にもの見せないといけない。元々おれの方が人間的に上なんだぞ。死ぬまでにおれの方が奴より勝ち組になっているべきだし、絶対にそうなるんだ。

 そうだ、そうだよ思い出した、そう、そういう奴らをあっと言わせる機会がついについに訪れたんだよ。

 聞いて驚くな、おれには「見える」んだ。前回のおれの配送日、そう3日前だよ。いつもの倉庫までの道に大川があって、そこに架かっているあのなんとかって橋の上でさ。おれはそんな霊感的なものはこれまでなかったしもちろん幽霊や妖怪の類は見たことがなかったから、正直自分でもびっくりしている。でも確かに見えたんだ。この目で見たんだから間違いない。ガキのころ絵本で見たまさにあの姿だったよ。意外と人間臭い感じだったかもな。

 いやあ、あんなもの本当にいるんだなあ。驚くな、3日前のことなのに新聞もテレビも騒いでないし、見えたのはどうもおれだけらしいんだよ。もうマジで自分の才能にはくらくらしちまうぜ、勘弁してくれよ。今の今まで取っとくなんて神様もいたずらなもんだぜ。ここまでおれを待たせやがって。

 あの時は焦って何もできなかったけど、今日はこのためにちゃんと一眼レフを持ってきている。幸い倉庫の納品まで全然時間もあるからゆっくりこの高性能カメラで仕留めてやるぞ。店員によると過去に心霊写真とかも撮ってる代物らしいし、これで準備はばっちりだ。

 おう、そうこう言ってるうちにもう少しで大川だな。おい、おれよ、心の準備はいいか?・・・

 ほら、川が見えてきたぞ。橋も見えてきた、いたいた!あの緑のやつ!橋の真ん中くらい、欄干の上かな!?おお食ってる食ってる!やっぱ河童ってキュウリ食うんだよな!頭に皿みたいなのもある!よし写真写真、そしてテレビ局に電話だ!

 

 

 男の目の先にある曲がったバックミラーには、川の水面にちょうど反射して、カメラを手にしてはしゃぎながらキュウリを咥える頭頂部の寂しい中年男の姿が確かに映っていた。

 

 

【短編(1)】展望台

これから短編(ショート・ショート)をいくつか挙げていきます。

↓一本目はこちら。

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 驚かせてしまったらすみません。みなさんは「殺し屋」という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか。ゴルゴ13?ヒットマン?必殺仕事人の中村主水が浮かんだというご年配の方もいらっしゃるかもしれません。でもそれらはあくまで漫画や映画の中の出来事。こんなものが実際にいたら怖いです。なにせ人を殺すことを職業にしている人ですから、こんな恐ろしい人間はありません。きっと義理人情や人の苦しみ、悲しみ、痛みなんて微塵も理解できない、いわゆるサイコパスなのでしょう。想像するだけで背筋が凍りそうです。

 でも大丈夫です、心配はいりませんよ。この平和な日本でそんな人がいる訳がありません。いていいはずがないのです。みなさんご安心ください。

 遅くなりましたがお話を始めましょう。この物語の主人公は男性です。歩いてどこかへ向かっているようですね。

 ダークグレーのスーツと白いワイシャツには丹念にアイロンがかけられた跡が見えます。スラっとした手足にきっちり整えられた髪、革靴の音を上品に鳴らしながら姿勢よく颯爽と歩く姿はいかにも「できる男」といった趣です。フェラガモの大きくて黒いハードバッグは少し見慣れないものですが、それもできる男の嗜みといったところでしょうか。この方角だと向かう先はどうやらあの駅のようです。

 男性が駅の改札を通過するとちょうど電車が到着するアナウンスが流れてきました。焦る様子もなくプラットホームへ向かっているところを見ると、おそらくその普通電車の発車時刻は把握済みだったのでしょう。部活を終えた中学生の集団やお出かけから帰る家族たちでごった返す合間を縫って真っすぐ扉へ向かい、滑るように乗り込みます。

 3つ目の駅を過ぎたところで徐に席を立ち上がり扉の前で待機した後、4つ目の駅に着いて扉が開くと同時に男性は降りていきました。大きな遊園地がある駅で、改札を出ればもうそれは目の前です。

 男性はポケットからあらかじめ買っておいたのであろうチケットを取り出し、そのまま受付の女性が待つ入園口へ飛び込みました。そこは全国でも屈指の大きな観覧車が有名で近年イメージキャラクターも話題になりましたので、名前を聞くとみなさんもすぐお分かりになるかもしれません。しかし男性は折角の乗り物にもキャラクターたちにも見向きしないでずんずんと歩いていきます。真っすぐ北へ北へと向かっているようですね。アスレチックなどがある北山が目当てなのでしょうか。いやいや、乗り物はまだしも成人男性が一人で巨大ジャングルジムやロッククライミングなんて考えられませんよね。

 北山には長いエレベーターが据えられていて一気に頂上まで登ることができます。頂上にある展望台は市内を一望できるほど見晴らしがよく、知る人ぞ知る遊園地の人気スポットです。そこからはあのビルやあの公園、あのテレビ塔まですべて見渡すことができるので、この街の人たちは悪いことはできませんね。男性はエレベーターに乗り込み、歩く倍以上のスピードで頂上まで昇り着きました。

 頂上に着くと、なにやら注意深く辺りを確認している様子。そしてこれまでとは打って変わったように慎重な足取りです。音を立てないようにゆっくりと足を運びながら十数分ほど歩き、そうこうしているうちに男性は展望台まで辿り着きました。

 展望台から市内の景色をゆっくり眺めると思いきや。ん???様子がおかしいですね。手に持っていたフェラガモから何か黒くて細い筒状の物を取り出して・・・あれは銃だ!!

 

 タン、という乾いた音がして・・・・

 

 

 男性は展望台から崩れ落ちました。

 

 

 ね、この世に殺し屋なんていらないのです。

 この巨大ジャングルジムからは展望台がよく見下ろせます。男はリサーチ不足でした。

 殺し屋のようなサイコパスは、攻撃することは非常に得意だけれど、自分が攻撃されるということは考えないようですね。まさに人外、まさに鬼。本当にどうしようもない奴らです。

 まあいいです。これで駆除八匹目と。さあ帰り支度をしましょう。

 そういえば、さっきから後ろのロッククライミングから何か人影が見え・・・

 

 タン!

 

 

 

終わり