れきぞーの地元れきし発見!

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【短編(1)】展望台

これから短編(ショート・ショート)をいくつか挙げていきます。

↓一本目はこちら。

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 驚かせてしまったらすみません。みなさんは「殺し屋」という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか。ゴルゴ13?ヒットマン?必殺仕事人の中村主水が浮かんだというご年配の方もいらっしゃるかもしれません。でもそれらはあくまで漫画や映画の中の出来事。こんなものが実際にいたら怖いです。なにせ人を殺すことを職業にしている人ですから、こんな恐ろしい人間はありません。きっと義理人情や人の苦しみ、悲しみ、痛みなんて微塵も理解できない、いわゆるサイコパスなのでしょう。想像するだけで背筋が凍りそうです。

 でも大丈夫です、心配はいりませんよ。この平和な日本でそんな人がいる訳がありません。いていいはずがないのです。みなさんご安心ください。

 遅くなりましたがお話を始めましょう。この物語の主人公は男性です。歩いてどこかへ向かっているようですね。

 ダークグレーのスーツと白いワイシャツには丹念にアイロンがかけられた跡が見えます。スラっとした手足にきっちり整えられた髪、革靴の音を上品に鳴らしながら姿勢よく颯爽と歩く姿はいかにも「できる男」といった趣です。フェラガモの大きくて黒いハードバッグは少し見慣れないものですが、それもできる男の嗜みといったところでしょうか。この方角だと向かう先はどうやらあの駅のようです。

 男性が駅の改札を通過するとちょうど電車が到着するアナウンスが流れてきました。焦る様子もなくプラットホームへ向かっているところを見ると、おそらくその普通電車の発車時刻は把握済みだったのでしょう。部活を終えた中学生の集団やお出かけから帰る家族たちでごった返す合間を縫って真っすぐ扉へ向かい、滑るように乗り込みます。

 3つ目の駅を過ぎたところで徐に席を立ち上がり扉の前で待機した後、4つ目の駅に着いて扉が開くと同時に男性は降りていきました。大きな遊園地がある駅で、改札を出ればもうそれは目の前です。

 男性はポケットからあらかじめ買っておいたのであろうチケットを取り出し、そのまま受付の女性が待つ入園口へ飛び込みました。そこは全国でも屈指の大きな観覧車が有名で近年イメージキャラクターも話題になりましたので、名前を聞くとみなさんもすぐお分かりになるかもしれません。しかし男性は折角の乗り物にもキャラクターたちにも見向きしないでずんずんと歩いていきます。真っすぐ北へ北へと向かっているようですね。アスレチックなどがある北山が目当てなのでしょうか。いやいや、乗り物はまだしも成人男性が一人で巨大ジャングルジムやロッククライミングなんて考えられませんよね。

 北山には長いエレベーターが据えられていて一気に頂上まで登ることができます。頂上にある展望台は市内を一望できるほど見晴らしがよく、知る人ぞ知る遊園地の人気スポットです。そこからはあのビルやあの公園、あのテレビ塔まですべて見渡すことができるので、この街の人たちは悪いことはできませんね。男性はエレベーターに乗り込み、歩く倍以上のスピードで頂上まで昇り着きました。

 頂上に着くと、なにやら注意深く辺りを確認している様子。そしてこれまでとは打って変わったように慎重な足取りです。音を立てないようにゆっくりと足を運びながら十数分ほど歩き、そうこうしているうちに男性は展望台まで辿り着きました。

 展望台から市内の景色をゆっくり眺めると思いきや。ん???様子がおかしいですね。手に持っていたフェラガモから何か黒くて細い筒状の物を取り出して・・・あれは銃だ!!

 

 タン、という乾いた音がして・・・・

 

 

 男性は展望台から崩れ落ちました。

 

 

 ね、この世に殺し屋なんていらないのです。

 この巨大ジャングルジムからは展望台がよく見下ろせます。男はリサーチ不足でした。

 殺し屋のようなサイコパスは、攻撃することは非常に得意だけれど、自分が攻撃されるということは考えないようですね。まさに人外、まさに鬼。本当にどうしようもない奴らです。

 まあいいです。これで駆除八匹目と。さあ帰り支度をしましょう。

 そういえば、さっきから後ろのロッククライミングから何か人影が見え・・・

 

 タン!

 

 

 

終わり